新人教育がうまくいかない時って「自分の教え方が悪いのか」「何でこんなこともできないのか」と自分や新人さんを責めてしまい、落ち込んだりイライラしたりしますよね。
中には自分の仕事ができなくて残業になってしまうなど、業務に支障をきたすこともあるかもしれません。
そこで今回は新人教育がうまくいかない原因と教え方のコツについて解説していきます。
新人教育がうまくいかない原因4選
原因①:新人と信頼関係が築けていない
あなたは新人に関しての以下の情報をいくつ知っていますか?
- 氏名(漢字フルネーム)
- 出身地
- 家族構成
- 住んでいる場所
- 週末に何をしているか
「教育をするだけなのにここまで知る必要あるの?」と思うかもしれませんが、これは最低限のプライベートな情報です。
教育においてどれだけ相手に興味・関心を持つことができるかは重要です。
仕事の話だけでは相手のことは理解できず信頼関係も築くこともきません。
相手のことを理解するということは、相手の世界観を大切にして一個人として尊重していることを示しています。
それができなければ相手の立場に立った、個々に合わせた指導は難しいと言えるでしょう。
原因②:指導方法が適切でない
あなたの新人指導方法において以下のことは当てはまりますか?
- 昔ながらの「見て覚えろ」式の指導
- 説明のみで実践させている
- 実践後のフィードバックを行っていない
- 質問時間を設けていない
- 新人個人のレベルを把握していない
- 失敗を責めたり感情的になることがある
もし一つでも当てはまるのであれば、それは新人指導方法を改善する必要があります。
原因③:新人を指導するスキルを持っていない・レベルではない
「新人を指導するスキルを持っていない・レベルではない」というのは聞こえは悪いかもしれませんが、その場合あなたは決して悪くないのです。
あなたが「新人教育に関する教育」を受けていないのであれば、それを行わない組織に問題があります。
また、あなたの経験年数が低く「新人教育を行えるレベルに達していない」場合も、新人教育係に選出した上司に責任があります。
原因④:新人側の問題
原因①~③に当てはまらない場合、新人自身に問題がある可能性があります。
新人自身の問題には大きく分けて2つあります。
- 意欲・性格の問題
- 大人の発達障害があるもしくはそれに近い特徴がある
まず、意欲・性格の問題だとしたら改善は難しいと言えますが、相手のことを理解することで打開策を見つけられるかもしれません。
次に大人の発達障害に関しては、デリケートな問題かつ一般の人には診断や治療をすることはできません。
しかし、大人の発達障害もしくはそれに近い特徴がある場合は、通常の関わり方は通用しません。
そのため、まずは大人の発達障害の特徴に当てはまるか把握し、対応方法について検討する必要があるでしょう。
大人の発達障害には大きく分けて以下の3つがあります。
- 自閉スペクトラム症(ASD)
- 注意欠如・多動症(ADHD)
- 限局性学習症(SLD)
一般的に社会に出るまでこのような発達障害と診断されなかった人は、障害の程度が軽いことやそれを補う能力を持っていること、周囲からのサポートがあったことが考えられます。
本人が自覚していない場合の関わり方は難しいかもしれませんが、上記のような特徴に当てはまるからと言って発達障害と決めつけるというよりは、「この障害に近い特徴を持っているからこういった対応をしよう」「この仕事ならできるかもしれない」という対策に繋げてもらえたら良いと思います。
ただし、発達障害に関する問題はかなりデリケートかつ難しいことなので、まずは上司に相談することが原則です。
産業医への相談も行うケースもあるため、決して自己判断で行動しないようにしましょう。
教え方のコツ2選
教え方のコツ①:信頼関係を築く
原因①でも説明しましたが、相手のことを理解していなければ個々に合った指導は難しいと言えます。
また、信頼関係を築くことができなければ、相手の本音を引き出すこともできません。
まだ新人との関係性が不十分な人は、いきなり信頼関係を築くことは難しいと思いますので、以下の声掛けや行動で信頼関係作りに取り組んでみてください。
- 自分から小まめに声を掛ける
- 「おはよう」「お疲れ様」
- 「大丈夫?」「疲れてない?」
- 声を掛けやすい雰囲気を作る
- 「困ったこと/わからないことがあればいつでも声を掛けてね」
- 忙しくてもイライラした態度を出さない
- 声を掛けられたら自分の作業は止めて聴く
- どうしても話を聞けない状況であれば理由を説明し後で自分から声を掛ける
- 雑談をする
- まずは自分のプライベートの開示を行う
- 相手のプライベートのことについても聞いてみる
- プライベートの相互理解を深める
- 「聞き出す」から「結果として話してもらえる」関係をコツコツ作っていく
最初は誰しも新しい環境では緊張し不安でいっぱいです。
新しい仕事を覚えることで手がいっぱいなのに、教育係との関係がうまくいかなかったらさらに萎縮してしまうでしょう。
そのため、初めは特に小まめに話しかけてあげて、そんな緊張や不安を取り除いてあげることが重要です。
また、いつも忙しそうだったりピリピリした先輩がいたら相談や質問がしづらいですよね。
特に相手のことを理解できていない段階だと「いつも無表情」「忙しそう」という表面上の印象だけでも話し掛けづらくなってしまうので、自分の印象や雰囲気にも気を配る必要があります。
そして、普段仕事の話しかしない先輩よりプライベートなどの雑談までする先輩の方が、ちょっとしたことでも報告したり相談したりしやすいですよね。
雑談にはその場を柔らかい雰囲気にして和ませる効果があると同時に、「相手から話してもらえる」関係性作りにも使えるのです。
こういったことを行うことにより信頼関係の土台作りができ、新人への理解もぐっと深まるはずです。
新人への理解が深まれば個々に合った教え方も見つけやすいですよ。
教え方のコツ②:教え方の基本を実践した上で個々のレベルに合った指導方法を選択する
教え方の基本
新人教育の研修では教育の基礎の説明として以下の格言がよく使われています。
やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ (山本 五十六)
これは日本の海軍軍人である山本 五十六という人の言葉です。
- 「やってみせ」:まずは自分が手本を見せる
- 「言って聞かせる」:理解できるように説明する
- 「させてみせ」:ここで初めて実践してもらう
- 「ほめてやる」:できたことを褒める、頑張ったことを認める(フィードバック)
この工程すべて行うことで初めて「教えた」と言えるでしょう。
現代ではこういった指導方法をOJT(On The Job Training)と呼びます。
OJTも4段階の指導法となっていて、
- やってみせる(Show)
- 説明する(Tell)
- 実践してもらう(Do)
- 評価・追加指導(Check)
のステップで指導を行います。
また、このOJTでは以下の3つのポイントを意識する必要があります。
- 意図的:どのような目的を持って行うか認識すること
- 計画的:しっかりとした計画に基づいて行われること
- 継続的:1度で終わるものではなく反復的・段階的に行われること
個々のレベルに合わせた指導方法
新人個々の能力によって1度のOJTだけで覚える人もいれば、何度も説明が必要な人もいたりして指導内容は様々です。
ここで大切なのは、どんなに業務の覚えが悪くても「自分が新人の時はもっと早くできるようになったのに」「他の新人と比べて覚えが悪いな」と他者と比較しないことです。
業務が覚えられなくて一番焦っているのは当事者である新人です。
ここでの対応次第で新人との関係性が崩れたり新人のモチベーションが低下したりする危険性があるため注意が必要です。
そのためまずは「自分の教え方・伝え方に問題があったのかな」と思うようにしてください。
個々の能力には差があって当然なため、他者ではなく自分が担当する新人ができるようになる方法を模索してみてください。
とは言っても、最初から個々のレベルに合わせた指導方法を見つけるのは難しいことです。
そのため、初めはOJTのトライ&エラーで進めていく形で良いと思います。
ただし、エラー後にフィードバックを行っても同じエラーを繰り返す場合は、難易度を下げることをおすすめします。
具体的な難易度の下げ方としては、
- 連続的・一連のものから工程を分けて実践させる、工程の一部を実践させる
- 一緒に実践する(協同参加)
- 難易度の低いもしくは得意な別の業務に切り替える
といったような方法があり、段階的に調整していくと良いでしょう。
難しい業務であったり失敗によりモチベーションが下がるタイプであれば、OJTのDoを初めから難易度を下げ①一緒に実践する(協同参加)⇒②工程の一部を実践させる⇒③工程のすべてを実践させるの順で段階的に進めていく形が望ましいでしょう。
また、教育の中で新人の理解度を確認するために質問をすることがあるかと思います。
理解できたか気遣う質問は気にしなくて良いですが、業務に関する問題を出題するような知識確認のための質問の場合、個々の能力を見極めないまま行うと新人のモチベーションを下げる危険性があるため注意が必要です。
ここで知っておいてもらいたいのは、質問にはclosed questionとopen questionの2種類あるということです。
もしopen questionをして答えられない場合、closed questionに変更して質問の難易度を下げる必要があるでしょう。
また、質問をする時の態度にも注意が必要です。
威圧的に答えを迫る、途中で相手の言葉を遮る、間違っていた時に叱るといったことは禁物です。
知識確認をするのであれば、あくまでクイズ感覚で新人のモチベーションを下げない工夫をする必要があるでしょう。
最後に、新人の成熟度が上がってくると、どうしてもOJTの「やってみせる(Show)」「説明する(Tell)」を省いてしまったり、「今までの応用でやってみてよ」といきなり実践させてしまいがちです。
これも個々の状況をしっかり把握しない状態で進めてしまうと思わぬ失敗の元になってしまいます。
ここで知っておくと良い教え方の考えがSL理論です。
これは部下の成熟度に応じて適したリーダーシップを示す人材育成に関する理論なのですが、比較的わかりやすく一般的な教育にも使える考え方なのでご紹介します。
本来のSL理論では部下とリーダーの関係ですが、ここでは新人と教育者に置き換えて解説します。
SL理論は簡単に言うと新人の成熟度(能力と意欲の高さ)によって指示やサポートの程度を調整するというものです。
未成熟な場合は指示型の教育となり、業務の目的や目標、具体的な行動に至るまで細かく指示を出していきます。
次にやや未成熟な場合ではコーチ型の教育となります。まだ業務の指示は必要なものの、ある程度自分で工夫することが可能となるため、疑問に答えたりフィードバックを行いながらサポートします。
3つ目にやや成熟してきた場合は参加型の教育となります。業務の具体的な指示は必要ありませんが、モチベーションを引き出したり自立を促すためのサポートを行います。
最後はかなり成熟してきた場合の委任型の教育です。指示やサポートは必要とせず、業務の責任を持たせ自由に行わせることが基本です。ただし、完全に放置するというわけではなく仕事の過程は見守り続けます。
新人の場合は指示型から始まり、業務によってはコーチ型・参加型の教育に移行できる場合があるのではないでしょうか。
闇雲にいきなり実践させるのではなく、新人の成熟度を見極めて4つの型から教育方法を選択できると効果的でしょう。
まとめ
今回は新人教育がうまくいかない原因4選と教え方のコツ2選について説明してきました。
新人教育はテクニックが必要で大変な分、教育者のスキルアップにも繋がります。
そのため「何で自分が選ばれたんだ」「自分の作業時間が減って面倒くさい」と考えるのではなく、「任命された自分は期待されている」「キャリアアップに繋がる」と考えて取り組んでみてはいかがでしょうか。
また、新人教育はひとりで行うものではなくチームで取り組むものです。
大変な時は無理をせず先輩や上司に相談しながら一緒に新人さんを育てていってください。